それがどうした、という話なんですけど、普通はこの順番が逆なのです。路線名が先で、駅名は後。銀座線上野駅、丸ノ内線新宿駅、千代田線赤坂駅と、よく言うでしょう。この呼び方は、ある路線があって、その途中停車のポイントとして駅がある、「駅」は「路線」の一部であるという考えを反映していると言えます。路線に対して駅がぶら下がるという形。路線が一番、駅が二番。
これは、いわゆる列車を走らせる側の考え方です。
その一方で、こんな考え方もあります。誰かに電車の乗り換えを説明しようとするときを思い浮かべてください。例えば
「上野駅から銀座線で銀座駅に行って、そこで丸ノ内線に乗り換えて、新宿駅に向かう」
とっさに出てきたこの文から読み取れるのは、駅を基準に語っているということです。
乗客はある駅から別の駅に移動するために電車に乗る、路線(電車)は手段にすぎない。乗客はまず駅のほうを先に考え、その次にどの路線を使おうかと考えるものなのです。駅が一番、路線は二番。
こちらはいわば、列車に乗る側の考え方です。
路線を先に考えるか、駅を先に考えるか。どうでもいいような話のようですが、このことに気づいたとき、鉄道事業者と乗客という立場の違いを決定的に表しているなと思いました。このアプリは、「ホームにある掲示物を見る人のためのアプリ」であって、ここはやはり乗客の立場に立つべきだとも思いました。
いわば、「鳥の目」で路線全体についての情報を提供するのではなく、「虫の目」になって、ひとりひとりの乗客の立場で、今いる駅について、近くの列車についての情報「だけ」を提供する。これは、いつもホームの掲示物がしている情報提供と同じです。
例えば、下の図のような例。この区間は有楽町線と副都心線が並行して走っている区間です。普通の路線図では、右の図のように実際の線路を忠実に表現しようとして、縦線を2本描くところですが、「虫の目」という観点では、1人の乗客が同時に2つの路線に乗ることはできないので、縦線を2本描くことはありません。むしろ、左側の図のように各駅で並行する別の路線に乗り換えできると考えます。